2012年08月19日

認知症高齢者介護の現場から ②

去年の4月から当施設を利用していただくことになったMさん。

一昨年、自宅で倒れて救急搬送され約8ヶ月の入院を経ての利用開始だった。

病院からの病状説明では「長期入院のため下肢の筋肉が衰え歩行はおろか立ち上がりも不可・認知症もあり暴言を吐いたり暴れたり、常に見守りが必要で排泄の都度要介助」なので自宅での生活はすぐには難しい。

以上の理由でしばらく当施設に泊まり様子を見て在宅での生活に戻ると言う、鳴り物入りで入ってきた方だった。

利用開始で初めてのお泊まりの日、ちょうど僕が夜勤だった。
もちろん病状説明を知っているのでかなり気合を入れて夜勤に臨んだものの、意外と静かに過ごされて特に問題もなかった。

その後も比較的穏やかに過ごされ、職員と冗談を言い合ったり行事の時は司会をしたりとすっかり人気ものになっていった。

日常の生活もかなり落ち着いてきたので、在宅を基本に毎日通所して週末のみのお泊まりというプランに切り替えた。

僕も夜勤の時などは一緒にお茶を飲み、小一時間ほど世間話をしたり楽しい時間を過ごさせていただいた。

そんなMさんの状態が去年の12月頃からひどく変わってきた。
最初の異変は家庭での暴言と暴力。

日中、施設に居る時はいたって普通に穏やかなのに家に帰ると別人のように凶暴になり奥さんを怒鳴りつけたり、辺のものを投げつけたりして暴れた。

何度か、奥さんの手に負えずうちの職員が緊急訪問したものだ。
僕もそういう時に訪問したが語気は荒く興奮し、奥さんが少しでも何か言ったり近くに行くと物凄い勢いで暴言を吐いた。

僕がいくらなだめて少し落ち着いても奥さんが近くに来るとまた凶暴になる。
その日は近くに住む義理の息子さんが来て泊まり、様子を見ることになったので僕は帰ってきた。

こういう事が度々続き、奥さんも娘さん夫婦も参ってしまった。
身内の方の介護負担や心労も勘案して、しばらく当施設に泊まることになった。

そうこうしているうちに年も明け、新年を迎えた。
もちろん大晦日も元旦も家には帰らない。

大晦日は僕が夜勤だったので元旦は僕の作ったお節で新年を迎えていただいた。

施設では家にいる時のような暴力的な言動はないが、異常なほどお金の事に執着したり見当識の障害が強くなってきた。

今どこにいいて何をしているのか解らないのだ。
時折、我に返る時があるようで「自分は頭がおかしくなった」とひどく落ち込むこともありとても気の毒だった。

明らかに認知症の症状が進んできているので、当施設のナースでもあるケアマネージャーが奥さんに精神科への受診を提案するが、奥さんにとって精神科というものにひどく抵抗がありなかなか受け入れていただく事もできない。

2月頃に少し状態が落ち着いた時期があったので一旦家に帰ってみることになったが何日もしないうちにやはり家では難しいという事で施設に戻ってこられた。

これ以上この状態が続くのはご本人にとっても辛いだろうし可愛そうだという事で、ようやく奥さんも精神科への受診を受け入れてくださりMさんの通院が始まった。

何度かの通院と検査の結果、今のMさんの病状では今後在宅での最活は困難という所見だった。

認知症の処方薬はメンタルな薬の処方も多く、奥さんには服薬管理が難しいというのが一番の理由だった。

今までも痛み止めや下剤等、本人が苦しいと訴えるとあるだけの薬を飲ませてしまうので精神科の処方薬をそんな風に飲ませてしまうのはリスクが高いからだ。

在宅での生活が困難という事は長期間で入所できるところを探すことになる。
しかし入所型の特別養護老人ホームや老人保険施設も入所待ちで、いつ入れるかは全く分からない。

それにMさんのレベルなら在宅に戻れる可能性もないわけではない。
もし入所型の施設に入ってしまったら恐らく在宅生活に戻る可能性はゼロに等しい。

73歳という若さでMさんのレベルなら何とかして在宅生活を継続しながら介護サービスを続けていただく方がご本人のためにもご家族のためにもいいと思われる。

しかし私の所属先の小規模多機能型居宅介護事業所では宿泊はあくまでも一時的なもの。
何年も泊まり続けてい頂く訳にはいかない。

居室も生活の場として作られていないし、継続して宿泊されると費用的な負担も大きくなる。
当社の運営するグループホームが隣にもあるので、そこの入所の待機ということでしばらくは当施設で生活していただく事になった。

3月後半頃からMさんの状態も少しずつ落ち着きを取り戻し始め、波はあるもののある程度穏やかに過ごして頂けるようになってきた。

そんな日々が続く中、急に隣のグループホームに空きができた。
もちろん待機者は沢山いらっしゃるのですぐに空きはなくなるがが、緊急性の高い人を優先する。

空きが出たことをご家族に伝え相談した結果、ご家族がグループホームへの入所を決断された。

グループホームは認知症であることが入所の大前提なので、もちろん認知症の方ばかりの居る施設だ。

しかも今回空きが出たユニットは認知症の度合いも高く、介護度も高い方が殆どだ。
落ち着いてきているMさんにとっては周りを見ると変な人ばかりと感じても仕方ない状況だ。
そんな中でMさんはどう感じ、どう思うのだろうかと思うと心が痛んだ。

しかし在宅復帰の具体的な目処もつかない現状で経済的な負担を考えた上でのご家族の苦渋の決断だったのだ。

前もって隣のグループホームに移るという事をMさんに伝えると混乱してしまうというご家族の懸念から当日までご本人にはその事は知らされなかった。

当日の朝、娘さんから話を聞かされたMさんはとても寂しそうだった。
Mさんの中でどう捉えどう理解されたかは知る由もない。

隣だから日中はこっちに来ていればいいという事になってはいるが、グループホームに入ってしまえばなかなかそういう事も難しいように思える。

自分たちの力で、もっとどうにか出来なかったのか・・・
やり場のない虚しさと切なさを感じてならない。
posted by hiro at 20:39| 北海道 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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